かかりつけ医とかかりつけ薬剤師・薬局の現状と問題点
ここでは、かかりつけ医、かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師を推進する厚生労働省の「患者のための薬局ビジョン」について各かかりつけ内容の定義、機能、メリット・デメリットをはじめ、みずほ情報総研のアンケート調査データ等を参照しながら実態をチェックしてみました。
かかりつけ医とは(定義・機能)
少子高齢化が進む日本では、最近、テレビ番組でも「主治医が見つかる診療所」(テレビ東京)などのような医療番組が増えてきたように感じます。
健康保険組合連合会「医療に関する国民意識調査(2011年11月)」によると、「日頃から決まった医師ないしは医療機関を受診している人」は全体の69.4%となっています。
医師や医療機関の有無に関するアンケート調査(N=2000)
Q:日頃から相談・受診している医師や医療機関の有無 | 割合 |
---|---|
・病気になるといつも相談し診察を受ける医師がいる | 23.6% |
・この病気ならこの医師というように、決まった医師がいる | 19.8% |
・医療機関は決まってるが、受診する医師は決まっていない | 26.0% |
・そのような医師・医療機関は決まっていない | 30.7% |
※出典:健康保険組合連合会「医療に関する国民意識調査」(2011年)
まずは、かかりつけ医の定義、機能について厚生労働省の資料等から見てみましょう。
「かかりつけ医」とは(定義)
なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師。
出典:日本医師会・四病院団体協議会
「かかりつけ医機能」
■患者の生活背景を把握し、適切な診療及び保健指導を行い、地域の医師、医療機関等と協力して解決策を提供する。
■患者やその家族に医療に関する適切かつわかりやすい情報の提供。
■診療時間外も地域の医師、医療機関等と必要な情報を共有し、協力して休日・夜間も対応できる体制を構築する。
■日常行う診療の以外に、健康相談、母子保健、健診・がん検診、学校保健、産業保健 等の地域医療に関する行政活動に積極的に参加し、介護・保健・福祉関係者と連携する。
■地域の高齢者のために在宅医療を推進する。
出典:厚生労働省保険局
出典:厚生労働省保険局
かかりつけ医のいる医療機関のアンケートでは、一般診療所が88%と圧倒的に多く、その他病院9%、大学病院2%、国立病院1%という順になっている。
かかりつけ医をその医師に決めた理由(アンケート結果)
その医師を自分のかかりつけ医に決めた理由を厚生労働省のアンケート調査から見てみましょう。
(N=471)
かかりつけ医を決めた理由 |
割合 |
---|---|
自宅からの通院が便利 | 72.6% |
医師の人柄が良い | 45.6% |
患者の病歴や健康状態を熟知 | 42.3% |
病気や治療についてよく説明 | 36.1% |
家族の病歴や健康状態を熟知 | 21.4% |
健康や疾病予防・医療介護の相談に応じてくれる | 18.7% |
必要な時に連絡がとれ、適切な指示をしてくれる | 18.3% |
必要な時に適切な医師・医療機関等を紹介してくれる | 18.0% |
医師の診療技術が優れている | 17.2% |
どんな病気でも診てくれる | 15.1% |
深夜や休日などの緊急時にも診てくれる | 6.2% |
最新の設備が整えられている | 5.7% |
往診を頼んでも断らない | 3.6% |
その他 | 3.2% |
※出典:健康保険組合連合会「医療に関する国民意識調査」(2011年)
かかりつけ薬局とかかりつけ薬剤師に必要な機能
かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師は、現状どのように機能しているのでしょうか。また患者、医師、薬剤師、医療機関にとってメリットやデメリットはどうなのかを見ていきたいと思います。全国の薬局数:57,000店(2013年末時点)
かかりつけ薬剤師制度は2016年4月からスタートしました。「かかりつけ薬剤師・薬局機能」について見てみましょう。
※上図のポスターは日本薬剤師会より
「かかりつけ薬剤師・薬局機能」は、下記のように「服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導」「24時間・在宅対応」「医療機関等との連携」という3つの柱から成る。
服薬 情報 の一元的・継続的な把握と薬学的管理・指導
主治医との連携、患者・お薬手帳の内容の把握等を通じて、患者が関わる全ての医療機関や服用薬を一元的・継続的に把握し、薬学的管理・指導を実施。また、患者に複数のお薬手帳が発行されている場合は、お薬手帳の一冊に集約化を実施。
24時間対応・在宅対応
開局時間外でも、薬の副作用や飲み間違い、服用のタイミング等に関し随時電話相談を実施。
夜間・休日も、在宅患者の症状悪化時などの場合には、調剤を実施。
地域包括ケアの一環として、残薬管理等のため、在宅対応にも積極的に関与。
※現状、半分以上の薬局で24時間対応が可能。(5.7万のうち約3万の薬局で基準調剤加算を取得)
かかりつけ医や医療機関等との連携を強化
医師の処方内容を確認し、必要に応じ処方医に対して疑義照会や処方提案を実施。調剤後も患者の状態を把握し、処方医へのフィードバックや残薬管理・服薬指導を実施。健康相談、医薬品等の相談に対応し、地域の医療関係機関と連携する。
※出典:厚生労働省資料
かかりつけ薬剤師になる条件・患者のメリット
かかりつけ薬剤師になるための条件
■薬剤師として3年以上の薬局勤務の経験。
一つの薬局に週32時間以上勤務し、半年以上在籍している。
■薬剤師認定制度認証機構の研修認定制度等の認定を取得している。
(認定更新は3年毎)
■医療に関する地域活動に参加している。
(関係団体、行政機関の講演会や研修会等)
出典:厚生労働省資料
日本薬剤師会HPでは「かかりつけ薬剤師のメリット」の表現は下記のようになっています。
かかりつけ薬剤師を持つメリット
(かかりつけ薬剤師の3つの機能)
(1)薬の専門家が身近にいるから安全・安心に薬を使用できる
ひとりの薬剤師がひとりの患者の服薬状況を一カ所の薬局でまとめて管理し、継続して行う
(2)24時間対応を行ったり、患者さんの自宅にお伺いし在宅医療を行う
薬局が開いていない時間にも薬の相談ができ、在宅医療もサポートしてもらえる
(3)処方医や医療機関と連携する
医療チームのサポートを受けられる
出典:日本薬剤師会HP
かかりつけ薬剤師を選んだ理由(アンケート結果)
かかりつけ薬剤師を選んだ理由について患者に対するアンケート調査結果から見てみましょう。
(N=580)
かかりつけ薬剤師を選んだ理由 |
割合 |
---|---|
薬などに関する説明が分かりやすいから | 73.8% |
薬や健康に関する知識が豊富だから | 51.9% |
専門的な資格を持っているから | 36.7% |
人柄(雰囲気・性格)が良いから | 59.7% |
薬や医療以外の日常生活のことも気軽に相談できるから | 32.4% |
ずっと同じ薬剤師に相談した方が、相談しやすいから | 50.3% |
薬剤師としての勤務経験が豊富だから | 25.7% |
患者(あなた)のことを最優先で考えてくれるから | 28.3% |
医療機関や知人等から評判を聞いたから | 9.5% |
あなたの家族の状況を知っているなど、普段から身近な存在だから | 27.6% |
その他 | 1.4% |
無回答 | 7.4% |
※出典:みずほ情報総研アンケート調査結果
かかりつけ薬剤師よりかかりつけ薬局制度のほうが良いという意見もあった。その理由としては下記のような内容だった。個人より組織での管理にメリットを感じているようだ。
・薬剤師は異動などもあるため。
・かかりつけ薬局であれば自分の服用歴は網羅してくれていると思うので、かかりつけ薬剤師にするメリットをさほど感じない。
かかりつけ薬局を選んだ理由(アンケート結果)
続いて、かかりつけ薬局を選んだ理由についてアンケート調査結果をご覧ください。
(N=1104)
かかりつけ薬局を選んだ理由 |
割合 |
---|---|
以前からよく利用している薬局だから | 62.4% |
信頼できる薬剤師がいる | 42.8% |
受診している病院・診療所から近い | 42.2% |
自宅から近い | 36.9% |
人柄の良い薬剤師がいる | 33.4% |
居心地が良い雰囲気がある | 17.3% |
患者のことを最優先に考えてくれる | 17.2% |
早く薬を渡してくれる | 15.1% |
いつでも電話相談等の連絡が可能 | 13.0% |
一般用医薬品や介護用品等様々な相談に応じてくれる | 12.1% |
プライバシーへの配慮が行き届いている | 8.4% |
勤務地から近い | 7.9% |
医療機関や知人等の評判を聞いた | 7.7% |
土日や夜間の開局時間が長く、生活スタイルに合っている | 3.9% |
その他 | 0.9% |
無回答 | 9.3% |
※出典:みずほ情報総研アンケート調査結果
かかりつけ薬局を持たない理由(アンケート結果)
これまでは持つ理由でしたが、今度は、かかりつけ薬局を持たない理由をアンケート調査結果から見てみましょう。
(N=835)
かかりつけ薬局を持たない理由 |
割合 |
---|---|
かかりつけ薬局についてよく知らなかった | 49.1% |
薬局を利用する機会が少なく必要性を感じない | 30.8% |
病院・診療所に近い薬局を利用する方が便利なため | 27.9% |
支払う料金が高くなるため | 12.6% |
信頼できる薬局がまだ見つかっていないため | 5.5% |
他の薬局から指導が受けられなくなると思うため | 3.4% |
家や勤務地から近い薬局がないため | 1.7% |
その他 | 4.2% |
無回答 | 4.7% |
※出典:みずほ情報総研アンケート調査結果
その他(4.2%)の具体的な意見は下記の通り
・薬の在庫がないため
・他の医療機関から処方された薬がすぐに揃わないから。
・あまり病院にかからないため。
・病気にほとんどならないから。
・どの薬剤師も親切に教えてくれるので問題ない。
・同じ人にこだわるよりは早くほしい。
・患者の負担額が増えるのは変だから。
・きっかけがなかったため。
かかりつけ薬剤師・薬局の問題点
患者は薬剤師を一人しか選べない。つまり調剤薬局を1ヵ所しか選択できない。
・患者は自分の家から近所の薬局を選ぶ可能性が高いのでは。
上記の回答にもあった負担金額について
通常の薬剤服用歴管理指導料に代わり、かかりつけ薬剤師指導料という負担が発生する。薬局運営側にはプラスだが、患者にはマイナス。
【3割負担の場合(例)】
・60円または100円程度の患者側負担が増える。
小規模の薬局の場合の問題点
- かかりつけ薬剤師の認定基準のハードルが高い。
- 24時間対応のための薬剤師の人件費。
かかりつけ薬剤師を持つための患者側の手続きと探し方
かかりつけ薬剤師を持つための手続き
薬局で「かかりつけ薬剤師」の申請をすれば、5分から10分の説明を受け、理解・同意した上で同意書に署名すればOK。
かかりつけ薬剤師の探し方(例)
病気やケガ等で薬を薬局に購入しに行った時、薬剤師に色々質問してみたり、薬局のイベント・相談会などがあれば参加して、自分にマッチした、かかりつけ薬剤師を探してみるという方法もあります。
厚生労働省の患者のための薬局ビジョンとは
患者のための薬局ビジョン、医薬分業とは(厚生労働省の基本的な考え方)
「患者のための薬局ビジョン」
「門前薬局」⇒「かかりつけ薬局・薬剤師」⇒「地域医療」
「患者のための薬局ビジョン」 イメージ図
出典:厚生労働省
全国薬局は約57,000店舗あるが、病院前に集中する門前薬局を中心に医薬分業のメリットを患者は実感しにくいのが現状。
これまでの各病院前の立地優先の門前薬局から薬局・薬剤師が専門性を十分に発揮して、IT活用し、患者の服薬情報の一元的・継続的な把握と薬学的管理・指導を実施する。
メリット
複数の薬局からの重複投薬の防止や残薬問題の解消なども可能となり、患者の薬物療法の安全かつ有効性の向上および、医療費の削減にもなる。